アミロイドーシス奮闘記 第31話〜第35話

第31話 冷酷

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 4月20日(日),私は関空を発ち,新千歳に向かいました。飛行機は快適でした。久しぶりに正気を保っていられたのですが,それには理由がありました。札幌で一つ,大きな“仕事”が待っていたからです。

 それは,娘に“告白”をするという,非常に辛いアクションでした。今まで私たち家族には隠し事はありませんでした。しかし私の病状については,離れた地に住む娘にはなかなか告げる機会がなく,この日まで来てしまったのです。

 本意ではないけれども結局娘に隠し事をしていることになっていたので気になっていた私は,飛行機で移動している間,娘にどういうふうに話そうか,ずっとそのことを考えていました。追い詰められた私には,体調が悪くなる余裕さえなかったのです。

 新千歳空港から自家用車に乗り換え,1時間ほどで札幌に住む娘のマンションに着きました。久しぶりに会う私に笑顔を見せた娘は,もちろん未だ何も知りませんでした。

 一緒に昼食をとりに車で出かけることにしました。今日私から重大な話があるということだけはすでに娘に伝えてありましたので,なにかぎこちない雰囲気を身に纏ったまま,私たちはレストランに入りました。

 食事をしながら話そうかとも思いましたが,なかなか言い出せず,時間だけが過ぎていきます。とうとう食事は終わってしまい,また娘の住処まで戻りました。娘は私に別れを告げましたが,私は首を振り,ついに話し始めました。

 それは何分かかったのでしょうか。気がついた時,助手席からは娘のすすり泣く声が聞こえてきました。見ると娘の顔は歪み,鼻は真っ赤になっています。心優しい娘に冷酷な宣告をした私の背中には,冷たい汗が流れていきました。

 娘が落ち着くのを待ち,私は治療を始めていることを告げました。きっと大丈夫だ,お父さんは絶対に負けないから,信じてくれと何度も言いました。その度に娘はうんうんと何度も頷き,私を見つめました。

 濡れた睫毛の向こう側には,今までお父さんが約束を破ったことはないじゃない,今度も信じているよとでも言いたげな,娘の思いつめた瞳がありました。

 私は娘と別れ,一路オホーツクを目指しました。

第32話 本格化

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 翌日からは,運動会に向けての活動が始まりました。毎日1時間は,屋外での授業が入ります。同僚は私を気遣ってくれていますが,それに甘えてばかりもいられません。ふらつく頭と闘いながらの毎時間,気がつけば給食時間になっている,そんな毎日でした。

 外でたっぷり運動をした子どもたちは,お腹がぺこぺこです。美味しそうに給食を食べる子どもたちの,なんと可愛らしいことか。

 わたしはぼぉっと子どもたちの顔を見つめていたようです。私と目が合った子どもたちは,みな一様に私を見つめ返し,言外に

「先生,食べたいの? 私の,あげようか?」

という雰囲気を醸し出していました。私は子どもたちの優しさに感謝しながら,蒸しジャガイモを食べ,にんじんジュースを飲みました。

 月曜日の放課後,私宛に荷物が届きました。それは,月見草オイルと無農薬ダージリンティーでした。食事療法の補助となる物たちです。

 黄先生の指示で,毎朝月見草オイルを飲みました。γリノレン酸が豊富に含まれるスーパーオイルですが,油であることにはかわりがなく,私は毎朝吐きそうになりながら堪えて飲み続けました。

 月見草オイルは,朝飲用後8時間が経過したころに再度飲用します。それから1時間後に,無農薬ダージリンティーを飲むのです。これで,体温が上がり,維持するとのことでした。

 翌火曜日の職員朝会で,私は発言しました。

「冷蔵庫に,怪しげな瓶が入っていますが,これは私の治療に使っている月見草オイルです。怪しいからといって捨てないでください」

 職員室は笑いに包まれました。後で同僚に聞いた話ですが,私の物言いが面白かったというよりも,ずっと険しい顔をしている私が冗談を言えるほどになってきたのかと思うと,皆は嬉しくなったのだそうです。私は本当に素晴らしい職場に巡り合えました。

第33話 係提案

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 学校というところは,行事ごとに作業を分担します。運動会担当から,係について話がありました。

「加藤先生,先生はどの係がやりやすいですか?」

という優しい言葉に,私は思わず涙しました。その頃の私は頭を水平に振ると立ちくらみが襲ってくる日々を送っていたので,頭を動かさないで済むような係を考えました。

 私は審判係を希望しました。ゴール地点を見つめる時間が長くなるので,大丈夫だろうと思ったのです。

 その週の金曜日,職員会議で運動会実施計画の提案がありました。私は審判係の責任者になりました。保護者の目の前に姿を晒す1日,私は気合が入るのを感じました。

 あっという間にゴールデンウィークを迎えました。今年はどこにも行きません。私はほとんどの時間を,布団の上で過ごしました。布団の上に横たわっていると,じゃがいも料理を作る気が失せてきます。まあいいや,1時間したら起き出そう,そう思った私は,恐ろしい目に遭います。

 以前,インフルエンザと勘違いした日のように,全く立てなくなってしまったのです。これは,横になっている間に体内の栄養分がどんどん失われ,“ガス欠”になったことから来る症状でした。もう以前の私ではないのに,まだ現状を認識しきれていない自分に,私は腹を立てました。

 ゴールデンウィークが過ぎると,運動会練習が本格化しました。私は毎日慎重に行動しながら,東京行きの準備をはじめました。施術開始は5月13日。いよいよ未知の世界に足を踏み入れることになります。

第34話 八王子

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 5月13日の朝,いつものようににんじんジュースを作り,ジャガイモを蒸かして冷やしておきました。今日は八王子に向かう日です。

 この日のために準備してきた様々なアイテムをバッグに詰め込み,全ての準備が済んだところで出発です。

 空港についたら,待ち時間は30分ほど。ちょうどいい時間でした。フライトには何の問題もありませんでした。

 羽田空港に予定通り到着です。予約していたリムジンバス出発まで40分以上あるので,乗場確認をした後,再度空港内に戻って椅子に座り仕事をします。時々,ジャガイモを食べながら,パソコン画面に向かいます。

 バスは定刻に出発します。車中,ジャガイモ食と仕事とを交互に行いました。バスは順調に進み,予定よりもずいぶん早く京王の八王子駅に着き,すぐタクシーに乗り込み,黄先生の待つ医院には40分も前に到着しました。

 お弟子さんに荷物を運んでもらい,予診票に記入しました。奥様が出てきて,優しい言葉をかけてくださいました。フェイスブックの私の書き込みを見ていて,妹の分まで生きるっていう思いを感じた,いっしょに頑張ろうって言ってくださいました。

 そうこうしているうちに,私の前の患者さんが診察室から出てきました。とても明るい表情になっていました。

 ニンジンとジャガイモは自分で調達することになっていたのですが,奥様がオーガニックのものを買って準備してくださっていました。

 いよいよ黄先生と対面です。私は黄先生と様々な話をしました。既往症を始めとして,どのような経緯で本日ここを訪れることになったのかを説明します。先生は,

「多分治せるよ」

と,事も無げにおっしゃいました。その絶対的な信頼感に,私は安心しました。

第35話 珈琲浣腸

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 話の中で,呼吸法の話になりました。これは私が双龍門気功法を行っても大丈夫かどうかを尋ねたことをきっかけに始まった話でした。

 現状ではきつすぎて無理だろう。呼吸法のみ教えようということになりました。また,現在常時ふらつくのが辛い,運動会も目前に控えているのでと訴えると,漢方を処方しようと言ってくださいました。

 そして,にんじんジュースについての話になりました。飽きるのでという話の流れで出てきたのは,酸っぱいものを少し入れてもいいということでした。私がレモンなどのことでしょうかと尋ねると,黄先生は頷かれました。

 その後,珈琲浣腸についての説明が始まります。この浣腸はすごく効果が高いとのことでした。コーヒーは体を冷やすので,飲むのは良くないけれども,下の方から内蔵を冷やすのがいいのだというお話でした。

 この浣腸を独りでもできるキットを下さると黄先生はおっしゃいました。コーヒーはオーガニックの豆を自分で挽き,淹れる必要があるとのこと。豆の焙煎まで手伝っていた無類のコーヒー好きの私が,自ら豆をグラインドして淹れ,それを浣腸する…少し笑ってしまいました。

 治療に際して,私の命式を出しておいたほうが良いということで,誕生時刻を聞かれたのですが,私には分かりません。

すると黄先生は,私の頭頂部を見て,誕生時刻を告げられました。頭頂部を見れば判るらしいのです!それを基にして命式を算出していただけるとのことでした。

 その後,私にとっての福音が告げられました。食事制限はずっと続くのではなくて,治れば元に戻せるというのです。元通りの食事ができる体になることをモチベーションにして,ジャガイモ食を続けますと,私は話しました。

 指示されたとおりに行動していることで体温が上がってきていることなどを話すうちに,奥様が玄米も大丈夫じゃないかと話されました。黄先生は同意し,玄米についても説明してくださることになりました。現在の食事は3ヶ月続けようとのことでした。

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